「考えてみよう その 3」のヒント

 最初にエネルギーの単位 eV について説明しよう。1 eV は電子や陽子など単位電荷 e をもった粒子を 1 V の電位差で加速したときに得られる運動エネルギー Ek のことで,1 eV = 1.6×10-19 J である。また電子の質量は 9.1×10-31 kg であるから,これをもとにみなさんがよく知っている運動エネルギーの式
  Ekmv2/2
で計算してみよう。ここで m は質量,v は速度である。すると
  v = 2×2.26×106×1.6×10-19/9.1×10-31 = 8.9×108 m/s
が得られる。しかしなんと光速 c の 3 倍ではないか!?? これは明らかにおかしい。

 特殊相対性理論によると静止しているときの物体の質量を m0 とすると速度 v で運動している物体の質量 m
  mm0[1/(1-v2/c2)1/2]                 (16-1)
で表すことができる。また運動している質量 m の物体がもっているエネルギーを E とすると,
  Emc2
で表される。ここでいうエネルギー E は静止している質量 m0 の物体がもっている静止エネルギー
  E0m0c2                       (16-2)
と運動エネルギー Ek を合わせたものである。さてβ線のエネルギー(ここでは 2.26 MeV)というのは電子がもっている運動エネルギー Ek のことであり,電子の静止エネルギーは式(16-2)から 0.51 MeV が得られるので,これと式(16-1)とからβ線の速度 v として,
   v = [1−{(0.51/(2.26+0.51)}2]1/2 = 0.983c
が求められる。c は光速度である。すなわち 90Sr から放出される最もエネルギーの大きいβ線の速度は,光の速度の98%にも達するのである。

記:2004-10-31

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