実験12/物理学実験
想い出の名古屋工業大学

こひつじの家



 名古屋工業大学(名工大)に勤務していたときに授業を担当した「物理学実験」でおこなわれていた,実験12「高温超伝導」の参考資料です。
 【注】実験内容等が変わっている可能性がありますので,あくまでも参考程度に見てください。
最終更新:2007-10-11


ヒント-1 接触抵抗が小さくならないとき
(1) 試料ホルダの向きが下の左図のようになっていたら,ホルダをソケットから取り外して右図のような向きに差し込む。左図のようになっていると,試料を端子の間に押し込んだときに端子が矢印の方向に動いてしまい,接触抵抗が小さくならないことがある。
ホルダの向き
(2) 試料を端子と支持棒の間に強く押し込む。
(3) 電圧測定端子間(赤とオレンジ)の抵抗は小さいのに,電流端子間(黄と茶)の抵抗が大きい場合は,試料の厚さが一様でなく一方が薄くなっていることが多い。試料を横から見て厚さを調べ,できるだけ厚いところが端子に触れるように位置をずらして挿入するとよい。
(4) 端子にはさみこんだときにスカスカの場合は試料を代える必要がある。試料は何度も使用しているうちに,端子との摩擦などによってしだいに摩耗してくる。

ヒント-2 温度が下がらないとき
 試験管が液体窒素の中に十分に浸っていない場合には,温度が途中から下がらなくなる。そのときは次のことをチェックしてみよう。
(1) 試験管は最上部ではさんで保持する。最上部で保持しないと試験管ばさみがデュワーびんにぶつかってしまうために,試験管を十分に下げることができない。
(2) 液体窒素が不足していないか。液面は,指をつっこんだときに簡単に触れるところにないといけない。

ヒント-3 端子間電圧がゼロにないとき
 熱電対のデータによると温度は下がっているはずなのに,電圧測定端子間電圧がなかなか下がらないことがある。今までに次の原因が判明している。
(1) 超伝導試料が不良であった。
(2) 電流端子と試料の間の接触抵抗が異常に増加したために試料が発熱した。接触抵抗が増加する原因としては,(A)試料や端子などの温度変化による変型,(B)試料や端子に付着していた水が凍って間を押しひろげた,(C)試料を試験管の中に入れるときに機械的ショックを与えた,などが考えられる。
 試料をホルダごと試験管から抜き取って液体窒素に入れた場合,原因が(2)のときは端子間電圧がゼロになる。

ヒント-4 記録計のペンが振動したとき
 測定中に記録計のペンが激しく振動することがある。原因は電圧端子と試料の間の接触抵抗が異常に増加して周囲の電気雑音を拾ってしまったためである。接触抵抗の増加の原因は「ヒント-1」を参考にるすとよい。

ヒント-5 いきなり端子間電圧がゼロになったとき
 温度を下げていっても電圧端子間電圧が超伝導現象による降下が始まらず,そうこうしているうちに突然ゼロになってしまうことがある。その原因は次に示すように試験管の底に溜まってきた液体空気によるものである。
(1) 「ヒント-3」に書いてあるような理由で試料の温度が下がらずに長時間が経過した。
(2) 試験管内の空気が液体窒素によって冷やされて少しずつ液化し,試験管内に溜まってきた。
(3) 上昇してきた液体空気の液面が試料に触れた瞬間に試料は急激に冷やされ,超伝導状態になった。


考えてみよう
 テキストの図 6 に矢印で示してある部分にも見られるように,熱起電力と電圧測定端子間電圧との関係は,降温時と昇温時とで左右にずれる。その理由を考えてみよう。
 ⇒ヒント


やってみよう
 下図のように超伝導体の上に円盤型ネオジム磁石を立てて置くと,磁石の N 極が北を向く。このときシャーレを水平面内で静かに回していくと,磁石は超伝導体といっしょに回りだすが,再び南北を向いてしまう。ここでシャーレに液体窒素をゆっくりと,超伝導体が浸るまで注ぐ。超伝導体が超伝導状態になると磁石は少し浮上する。さてここで先程と同様にシャーレをゆっくりとまわしていくとどうなるだろうか。次の 2 つの状態が考えられるが,さてどちらかな。
(1) 磁気浮上している磁石と超伝導体の間に摩擦がなくなったから,磁石はぴたりと南北を向いて動かない。
(2) 磁石と超伝導体は何かの力で結ばれていて,超伝導体と磁石がくっついているように,いっしょに回る。
磁気浮上
 ⇒ヒント


やってみよう
 液体窒素に浸して超伝導状態になっている超伝導試料を手早く下図のように永久磁石の上に近づけ,すぐに方位磁針で試料が磁化されていることを確かめてみよう。図のように近づけたときには超伝導試料の下面が S 極に,上面が N 極になっていることがわかる。磁化の向きは鉄などの強磁性物質の場合と同じである。
 永久磁石に近づけた試料を再び液体窒素の中に浸して数分後に取り出し,方位磁針に近づけて磁化が保たれていることを確認してみよう。テキスト140ページに永久電流のことが書いてあるが,ここで使用しているような第 2 種超伝導体の場合には,超伝導体が円環でなくても永久電流が生じるのである。
磁化された超伝導試料
参考
 超伝導状態になっている物質の上で永久磁石が浮上することや,永久磁石の上に超伝導物質が浮上する様子は本実験でも見ることができるし,本やテレビなどでもよく紹介されている。しかし次の図のように超伝導物質の下に磁石を宙に吊り下げることも可能である。ただし本実験で使用している試料ではだめで,財団法人「超電導工学研究所」で開発した高温超伝導材料などで実現されている。
 このように磁石を吊り下げるときは,最初にネオジム磁石を机につくまで持ち上げておいてから容器に液体窒素を注ぎ,超伝導体が超伝導状態になったところで磁石を持ち上げていた手をはなす。
吊り下がった磁石
参考 超伝導と超電導
 超伝導超電導は同じものであるが,基礎分野では超伝導を,工学などの応用分野では超電導を使用している。
 超伝導状態になったときには電気抵抗がゼロとなることはよく知られているが,熱の伝導についてはどうであろうか。これが意外にも熱伝導は極端に悪くなってしまう。特に金属の場合,常温では電子が熱伝導を担っているが,超伝導状態になると電子は熱伝導の働きを停止してしまうからだといわれている。
 話を戻すと,英語では超伝導超電導は superconductivity なので,直訳すれば超伝導となるが,意味からすると超電導の方がふさわしい。

記:2005-04-20