誤差とシミュレーション法
物理学実験
想い出の名古屋工業大学

こひつじの家



 名古屋工業大学(名工大)に勤務していたときに授業を担当した「物理学実験」の参考資料です。
 【注】実験内容等が変わっている可能性がありますので,あくまでも参考程度に見てください。
最終更新:2007-10-11


間接測定値の誤差をシミュレートする
 各直接測定値の誤差から間接測定値の誤差を見積もるとき,テキスト21ページの誤差伝播の式(5.18)がよく用いられるが,実はもっと簡単な方法がある。それがこれから説明するシミュレーション法(仮称)だ。ひと口でいえば直接測定値の値を誤差の分だけ変化させて,間接測定値の変動を見るというものである。この方法を用いれば偏微分を行う必要もないし,何よりも誤差伝播の様子が確認できるところがよい。

シミュレーション法の一般的説明
 W が間接測定値,XY などが直接測定値,実験式が

   WfXYZ,. . .)               (1)

で,各測定値が

   Ww±Δw
   Xx±Δx

などで表されるとする。ここで wx などは最確値(平均値)で,Δw や Δx などはそれぞれの最確値の誤差を表す。

1.各直接測定値の最確値を式(1)に代入して,間接測定値の最確値 w を求める。

2.x の代わりに x + Δx を式(1)に代入して wΔxを求める。(こうすることによって,x の値を Δx だけ変化させたときに,W が変化する量 ΔwxwΔxw が分かる)

3.Y 以下についても同様に計算して,ΔwywΔyw などを求める。

4.求めた Δwx などをテキスト21ページの式(5.17)に代入して,間接測定値の誤差 Δw を求める。

シミュレーション法による具体例
 実験式

   V = πd 2h/4                (2)

によって円柱の体積 V を求める。d は円柱の直径,h は円柱の高さで,測定値として d = 5.175 ± 0.002 mm,h = 50.04 ± 0.05 mm が得られた。

1.dh の最確値を式(2)に代入して,体積の最確値 V = 1052.51 mm3 が求められる。

2.d について 5.175 + 0.002 = 5.177 mm を式(2)に代入すると,体積は Vd = 1053.33 mm3,体積の変化量は ΔVd = 1053.33 − 1052.51 = 0.82 mm3 となる。

3.h について 50.04 + 0.05 = 50.09 mm を式(2)に代入すると,体積は Vh = 1053.57 mm3,体積の変化量は ΔVh = 1053.57 − 1052.51 = 1.06 mm3 となる。

4.これをテキスト21ページの式(5.17)に代入して,
   ΔV = (0.822 + 1.0621/2 = 1.34 mm3
となる。したがって誤差を考慮した体積は,
   V = 1053 ± 1 mm3
で表すことができる。

誤差伝播の式を用いた結果との比較
 式(2)についての誤差伝播の式がテキスト46ページの式(2)にあるので,d = 5.175 mm,Δd = 0.002 mm,h = 50.04 mm,Δh = 0.05 mm,V = 1052.51 mm3 を代入してみると,ΔV = 1.33 mm3 が求められ,シミュレーション法による結果と一致する。誤差については最終的に上位の 1〜2 桁だけを求めればよいのだから,誤差伝播の式に代入する最確値は最初の 2 〜 3 桁を用いれば十分だ。ちなみに d = 5.2 mm,h = 50 mm,V = 1.05 × 103 mm3 を代入しても,結果は ΔV = 1.32 mm3 と変わらない。

シミュレーション法を用いる時の注意
 たとえば X を変化させて計算し,次に Y を変化させる時には,先ほど変化させた X を元の最確値に戻しておかないといけない。

記:2005-04-20