物理量とは 「一円玉の質量」,「今私がいる部屋の室温」,「地球の半径」などのように,測定器で測定できる量や測定器で測定できる量にπなどの数学的定数などを用いて算出できる,明確な次元をもった量を物理量という。もう少し詳しく説明すると,「ある一円玉の質量を測定したところ 0.998 g であった」というとき,ある一円玉がもっている質量が物理量であり,0.998 g は物理量の測定値である。測定値の単位を変えて 0.03520 オンスとしても,同じ物理量を表している(ここでは測定誤差や単位換算の誤差については無視する)。 物理量があるのならば化学量もありそうな気がするが,化学で扱うときも物理量という。物理量は英語では physical quantity であって,物理学とは直接には関係がない。物理量ではなくて物量とでも訳した方がわかりやすかったのではないかと思う。 物の硬さ,光沢などを量的に扱うことがあるが,これらの量は次元が明確ではないので物理量とはいわず工業量という。また暖かさ,まぶしさなど人が感じる量は心理物理量という。心理物理量は物理量には比例しないことがわかっている。 物理学では,質量や電荷はスカラー量で,速度や力はベクトル量で表す。このように物理量は一般的にスカラー,ベクトルまたテンソルで表される。しかし名工大の「物理学実験」で求める量は物理量の大きさであるので,ベクトルなどを意識する必要はない。 書物などに質量,長さ,温度などが物理量であるかのように書いてあることがあるが,「○○の質量」というように具体的でないと物理量とはいえない。単なる質量や長さなどは物理量の概念または物理量の次元である。 物理量と単位 テキスト 5 ページに,「物理量は数値と単位の積で表される」と書いてある。そこで (1)円環の質量は 2.87 kg である という場合を考えてみよう。これをもう少し詳しく書くと「円環の質量という物理量は,基準となる単位である国際キログラム原器の質量 1 kg の 2.87 倍である」となる。ここで単位は kg ではなくて,1 kg であることに注意する必要がある。質量の単位は質量という次元をもった物理量なのだ。キログラム(kilogram)は単位の名称,kg は単位記号という。 次に(1)を少し変えて (2)円環の質量 M = 2.87 kg としてみよう。こんどは M という,物理量を表す記号が付いた。JIS ではこの記号を量記号とよんでいる。ここで量記号 M がもつ意味について考えてみよう。(2)を見ると M は 2.87 という数値と 1 kg という単位を含んでいる。しかし M = 2.87×103 g でもよいわけだから,特別の単位にはしばられない。物理で使用する一般式は F = kx というように単位記号を付けないことが多いが,これは量記号は特定の単位にしばられない物理量を表しているからである。 単位表記のバラエティー 学生のノート,レポート,卒業論文などを見ると, (3)円環の質量は 2.87 [kg] である というように数値に続く単位記号に さらに高校の教科書をみていくと, (4)円環の質量 M = 2.87 [kg] というように,量記号と数値が等号で結ばれている場合には単位記号に (5)F = 40×2.0 = 80 [N] というように式の途中に数値式が入る場合は,気が付いた範囲ですべての単位記号に 式の最後に [単位記号] を付ける場合は,「量記号と単位記号をはっきり区別するため」ということと「単位記号が式全体にかかっていることを表現している」と解釈すれば納得できる。 高校の教科書では次のような例題の解がちょっと気になった。 | |
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このように途中の計算式には単位記号を付けてないものが多いのだ。a は単なる数値ではなく量記号であるので,(5)の例のように単位記号をつけておかないと,等式が成り立たない。
ここからは高校の教科書から離れることにして,計算式における単位記号について考えてみよう。物理量が数値と単位記号で表現されることを適応すると,たとえば (6)a = (v1−v0)/t = (2.5 m/s − 0.5 m/s)/1.0 s = 2.0 m/s2 というように表すのが正しいことになる。しかし現実には (7)a = (v1−v0)/t = (2.5−0.5)/1.0 = 2.0 m/s2 というように途中の数値式には単位記号を付けない場合が多い。実験テキストでも式の最後だけに単位記号を付けている。 量記号に特定の単位を設定するときには, (8)初速度を v0[m/s]とすると,時刻 t[s] における… というように表現する。ということで, (9)a [m/s2] = (v1−v0)/t = (2.5−0.5)/1.0 = 2.0 m/s2 というような書き方も認められることになる。 表やグラフで物理量を扱っているときでも,表の中に入れるデータは数値であることが多く,グラフの軸にも数値を添えることが多い。その場合,物理量に与えている単位を示す必要があって,一般に次のような表記が用いられている。 (10)バネの伸び x [mm] (11)バネの伸び x /mm 実験テキストでは(10)の記述を用いている。(11)の記述は「物理量=数値×単位」ということから「数値=物理量/単位」を表しているが,このように表記してある論文等もかなりある。また単位記号を 名工大の「物理学実験」における単位表記 ・ 数値だけに単位記号を付けるときは単位記号にかっこを付けない。 例:長さ 22 cm の金属棒 ・ 量記号や数値式に続いて数値が入っているときは,単位記号に 例:円環の質量 M = 2.87 kg 例:円環の質量 M = 2.87 [kg] 例: a = (v1−v0)/t = (2.5−0.5)/1.0 = 2.0 m/s2 例: a = (v1−v0)/t = (2.5−0.5)/1.0 = 2.0 [m/s2] ・ 表の中やグラフに記入するときは,次の例のように,物理量を示す量記号に続いて 例: バネの伸び x [mm] 物理量と単位の表記 ・特に印刷するときやワープロで作成するときは,物理量を表す量記号はイタリック体(斜体)文字で,単位記号はローマン体(立体)文字で書く。 ・単位記号中の大文字と小文字をはっきり区別して書く。 基本単位と組立単位 国際単位系(SI)では基本単位7つを定義し,基本単位を用いて表すことのできる単位を組立単位としている。単位のうち角度を表すラジアン rad と立体角を表すステラジアン sr は,は数学的に定義されることと無次元ということで特殊である。以前は補助単位として扱われていて,実験テキストでも第5版第3刷までは補助単位として分類していた。しかし1998年に発行されたSI国際文書で,radとsrは組立単位に組み込まれた(rad と sr を基本単位で表すと,それぞれ m・m-1 と m2・m-2 である)。 接頭語 書物やインターネット上で「10 の整数乗倍を表現するために使われる k や m などを補助単位という」と書いてあるものを見かけるが,これは誤りである。テキストに書いてあるように接頭語という。 記:2005-04-20 |