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最終更新:2012-07-15
新規作成:2007-11-29
1 レンズの歪み?
端の方にいる人は太って写る!
デジカメ実験室

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 私がいる部屋を写真で紹介しようと思う。そこで机に向かってこしかけて,目の位置から前を見た様子がわかるようにカメラを構えて撮影することにした。なおレンズの焦点距離は35mm判換算値で示している。

 図1-1は,52mmの標準的なレンズで撮影した写真である。
52mmレンズで撮影した部屋
1-1 52mmレンズで撮影した部屋

 私が普段見慣れている光景が写っているが,視野が狭いために,ほんの正面の様子しかわからない。そこで標準的な広角レンズの中では視野が広い28mmのレンズを使って,少し広い範囲を写してみた(図1-2)。
28mmレンズで撮影した部屋
1-2 28mmレンズで撮影した部屋

 やはり広角レンズを使うと視野がだいぶ広くなることがわかる。しかしもっと広い範囲を写したいので,超広角の15mmレンズで撮影してみた(図1-3)。
15mmレンズで撮影した部屋
1-3 15mmレンズで撮影した部屋

 さすが超広角レンズというだけあって,視野はいっきに広くなった。これなら部屋の半分ほどが写っているような感じがする。室内や建物全体を写したりするには超広角レンズは便利である。
 だけど…,なんだか変だぞ。キーボードはひしゃげているし,左に見える普通のテレビの画面がまるでハイビジョンのような横長になっているではないか! 超広角レンズが不良品のために写真が歪んでしまったのだろうか?

 超広角レンズで撮影した写真をよく観察してみると,写っているモノが写真の四隅から引っ張られるように引き伸ばされているような感じがすることがわかる。
「どれほど引き伸ばされているのか調べてみよう」
というわけで超広角レンズを使って巻尺を撮影してみることにした(図1-4)。さすが超広角レンズだけあって,レンズの先端から巻尺までの距離がわずか10cmほどしかないのに,巻尺上の45cmほどの範囲が視野に入ってしまった。
15mmレンズで撮影した巻尺
1-4 15mmレンズで撮影した巻尺

 巻尺以外のところはカットしてあるので細長い写真になってしまったが,
「あれっ歪んでいないぞ! 写真中央の1cmも両端の1cmも同じ長さに写っているではないか?

 もっと詳しく調べるために,パソコン上に図1-5に示すテストチャートを作った。
テストチャート
1-5 テストチャート

 実際のサイズは1600×1200ピクセルほどあり,これを20インチ液晶ディスプレイにフルスクリーンで表示させて,15mmレンズで撮影した(図1-6)。こんどもディスプレイからレンズの先端までは10cmほどしかなかった。
15mmレンズで撮影したテストチャート
1-6 15mmレンズで撮影したテストチャート

 図1-6を見たところ,周辺がやや湾曲しているものの *1 ,四隅へ引き伸ばされているような感じはまったくなかった。
このような歪みを[樽型歪(たるがたひずみ)]という。広角レンズを使用した場合に現れることが多い。
 部屋を写した写真を見ると「おかしい」と感じるのに,巻尺やディスプレイを写した写真を見ても「おかしくない」。この違いは何だろうか?

 違いとして,巻尺は1次元(のようなもの)だしディスプレイの画面は2次元であるのに対して,部屋は3次元であることが考えられる。そこで被写体とレンズと撮影素子(またはフィルム)についての関係を調べてみることにした。

 被写体とレンズと撮影素子の関係を横から見た場合を図に表してみよう。
 図1-7は被写体が平面(2次元)で,平面と撮影素子が平行になっている場合である。ABは同じ長さの被写体で,レンズLによって撮影素子上にそれぞれA'B'の像を結ぶ。
平面を写す場合
1-7 平面を写す場合

 この場合は図を見ても,また簡単な計算によっても,A'B'の長さが同じであることがわかる。

 図1-8は立体(3次元)の場合である。被写体ABが同じ直径の円柱であるとして考えてみよう。ABは撮影素子と平行に並べて置いてある。
円柱を写す場合
1-8 円柱を写す場合

 図1-8を見ると,被写体が同じ直径であるにもかかわらず,撮影素子上の像はA'よりもB'の方が明らかに大きくなってしまうことがわかる。

 実際に撮影してみたらどうなるだろうか。一直線上に直径15mmのマーカー5本を10cm間隔で並べて立てておいて,真横から15mmの超広角レンズで撮影してみた(図1-9)。
15mmレンズで撮影したマーカー
1-9 15mmレンズで撮影したマーカー

 やはり中央のマーカーに比べて,端にいくほど太く写っている。これはレンズが悪いのではなく,立体(3次元)の被写体を平面(2次元)の撮影素子上に写したために,歪んだように見えるだけである。
 そういえば,写真の端の方にいる人が太って写っているのを見たことはないだろうか。その理由は上で説明したとおりである。太って写る原因はカメラやレンズが悪いためではないことがわかる。

*1 このような歪みを[樽型歪(たるがたひずみ)]という。広角レンズを使用した場合に現れることが多い。

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