実験10/物理学実験
想い出の名古屋工業大学

こひつじの家



 名古屋工業大学(名工大)に勤務していたときに授業を担当した「物理学実験」でおこなわれていた,実験10「磁気ヒステリシス」の参考資料です。
 【注】実験内容等が変わっている可能性がありますので,あくまでも参考程度に見てください。
最終更新:2007-10-11


注意 磁気を帯びているもの
 磁気ヒステリシスの実験を行っている付近には長さが 10 cm を越える鉄製品や特に磁石を使用してあるものを持ち込まないようにしないといけない。最近特に問題になるのが携帯電話である。携帯電話には小さいけれども強力な磁石が入っているので,これをポケットに入れたりしている人が動くと,自分が行っている実験以上に,すぐ後ろで行っている実験に影響を与えてしまう。
 気が付いたかもしれないが,磁気ヒステリシスの実験を行っている付近には木製のこしかけを配置してある。

注意 試料の長さ
 取っ手をはんだ付けしてある部分は,はんだに被われて試料の針金が見えていない場合があるが,試料は存在している。テキスト118ページ図3をよく見て参照するとよい。試料は,長さ l = 28.0 cm として作ってある。

注意 必ずグラフにも記入しながら測定する
 電流に対する像の位置をノートに記録しただけでは,読み取った値が正常かどうかを判断することが困難である。しかしデータをグラフ上に記録しながら測定していけば,異常なデータがあればその場で見つけることができる。その場で見つければ,異常データが生じた原因をつきとめることも困難ではない。原因によっては,測定を中止して,ただちに最初からやりなおすこともできる。

注意 途中で電流調整つまみをバックさせるな
 ヒステリシス特性(図1や図2)を見ても分かるように,電流を増減したときに今までたどってきた曲線上を戻らない。測定の途中(電流が最大になったとき以外)でつまみをバックさせると,正常な測定ができなくなる。


ヒント-1 左右の最大振れ幅が一致しないとき
 「電流に対する像の位置の予備測定」において,最大に振れたときの像の位置が左右で異なることがあるのでその理由と対策について述べよう。
 テキスト118ページの図3に示すように,磁性体試料と小磁針は左右のコイルを貫く軸上にセットする必要がある(テキストの図3では試料が軸上から下にずれているが,これは印刷のミス)。ところが小磁針が軸上から図の上または下にずれていると,磁化した試料(細長い棒磁石だと考えればよい)から受ける磁気力が上下非対称となるために,左右の振れ幅も非対称になる。
 もう少し詳しく説明しよう。小磁針は北を指している方が N 極だから,図3のように像が左側に振れたときは試料の右(東)の方が N 極となっている。ここで試料を中心軸よりも少し下に移動させる(図3もそうなっている)と,試料の N 極と小磁針の S 極が近づくために磁気力が大きくなり,小磁針は少し右に回転し,像の位置はさらに左に移動する。反対に像が右側に振れたときは試料の右が S 極となっているが,小磁針の N 極との距離がやや大きくなっているために磁気力は小さくなり,光の像の移動も小さくなる。
 次に調整法を示そう。操作した内容や像の位置などを必ずノートに記録しながら行うこと。
(A) 小磁針の真上から見て,小磁針がコイルの軸上にあるかどうかを目で見て判断する。もし軸上からずれていなかったら(B)へ進む。ずれていた場合は箱を南北方向に移動させて調節し,測定(3)からやりなおす。それでも一致しないときは(B)へ進む(明らかにずれていた場合は,だれかが不用意に箱を動かしてしまった可能性がある)。
(B) たとえば像の位置が右よりも左へ方が大きく振れたときは,小磁針の位置が北に偏っているはずだから,箱を南へ数 mm ほど移動させ,測定(3)からやりなおす。それでも一致しないときは(C)へ進む。
(C) 左右の振れ幅等を記録したノートのデータを参考に,箱を移動させる方向と距離を決めて(B)を行う。

ヒント-2 電流の増減時
 電流は 0.2 A ずつ変化させることにしてあるが,これは 0.200 A とは違う。0.2 A にはそれほど意味がないので,あまり細かく電流を設定する必要はない。ジャスト値に合わせようとしてジャスト値を行き過ぎてしまいバックさせた場合には正常な測定ができなくなる


考えてみよう その 1
 実験で用いた試料の磁気ヒステリシス損失は 10 × 103 J/m3程度である。交流磁場の中にある強磁性体は磁気ヒステリシス損失によって発熱するが,単位時間あたりの発熱量は試料の体積×交流の周波数×磁気ヒステリシス損失となる。試料を 60 Hz の十分に強い交流磁場の中に入れたときの発熱量を求めてみよう。
 ⇒ヒント

考えてみよう その 2
 テキスト119ページに,「θは小さいので,tan 2θ = eD を tanθ = e/(2D) で近似できる.したがって …」と書いてある。この実験の場合,近似したことによる誤差(理論誤差 テキスト14ページ)を求めてみよう。そして近似を使用したことの妥当性についても考えてみよう。
 ⇒ヒント

考えてみよう その 3
 できあがったヒステリシス曲線が,次の図の黒線で示した正常な形ではなく,赤線や緑線で示したような形になってしまった場合は,その理由について考えてみよう。
矢印グラフ
 ⇒ヒント


参考
 テープレコーダやハードディスクなど電気信号を磁気的に記録する装置では,磁気ヒステリシス特性は非常に重要な要素となっている。初期のテープレコーダではテキスト図1の磁場(電流)−磁化特性の直線部(A-B 間)を使用して記録していたが,その後は交流バイアス法によって E(K)付近の直線部を用いて記録するようになった。

参考
 この実験では「試料から小磁針までの距離 R」の測定誤差が,実験の精度を悪くしている。テキストの式(3)から,R の測定誤差が磁化の結果に最も大きな影響を及ぼすことが計算できる(R の ±1 mm[相対誤差 0.3%] が e に±0.1 T/m[相対誤差 1.5%])が,さらに R については,物差を直接あてて測定することができないので,±0.2 〜 0.5 cm ぐらいの誤差が生じる可能性がある。
 R の大きさは,試料を入れるコイル A を小磁針の入っている箱からどれだけ離したかによって決まる。

記:2005-04-20