実験15/物理学実験
想い出の名古屋工業大学

こひつじの家



 名古屋工業大学(名工大)に勤務していたときに授業を担当した「物理学実験」でおこなわれていた,実験15「真空技術」の参考資料です。
 【注】実験内容等が変わっている可能性がありますので,あくまでも参考程度に見てください。
最終更新:2007-10-11


高電圧に注意
 ガイスラー管に加える高電圧を発生させるためにインダクション・コイル(誘導コイル)を使用しているが,発生する電圧は最大で数万ボルトにもなる。ガイスラー・スイッチを押して高電圧を発生させるときには,手や衣服などがインダクション・コイルやガイスラー管から 5 cm 以上離れていることを確認すること。
 インダクション・コイルに取り付けてある放電用電極間の距離を 2 cm 程度よりも大きくしてはいけない。理由は次の参考にある。


参考
 最初に真空装置の圧力が大気圧の状態でガイスラー・スイッチを押したとき,バチバチという音がして驚いたと思うが,バチバチ音はインダクション・コイルに取り付けてある放電ギャップから発生したものである。放電ギャップはインダクション・コイルの出力電圧が異常に高くなることを防止するために設けてある。
 大気中で空中放電させるためには,およそ 10 kV/cm の電場が必要であるので,たとえば電極間のギャップを 1 cm に調節しておけば,1 万ボルト程度で放電を開始する(電極の先端が尖っているために,実際にはもっと低い電圧で放電する)。そしてひとたび放電が始まると電極間の電圧は千ボルト程度まで低下するので,このようなギャップを設けておけばインダクション・コイルの出力電圧に制限をかけることができる。このような目的で設けたギャップを安全ギャップということがある。

 放電ギャップを十分に大きく開いてからテストしたところ,ガイスラー管内の圧力が大気圧のときには,発生する電圧は 5 万ボルトほどになった(危険だからやってはいけない)。ガイスラー管で放電が始まると電圧は数千ボルトに下がり,特にガイスラー管内の圧力が 3 Torr 〜 0.3 Torr においては千ボルト以下にまで下がった。圧力をさらに下げると電圧は再び上昇し,0.08 Torr で 1 万ボルトになった。

参考
 放電ギャップで放電がおこっている時に,異様な臭いがすることがある。これはオゾン O3 が発生したためだ。


ヒント-1 排気特性 II
 テキスト187ページの図4 が「空気と窒素」になっていることと,液体窒素を使ったということからか,「排気特性 II は窒素だ」と思い違いしている人が多い。しかし排気特性 II を測定したときに,真空容器の中に窒素は入れなかったはずだ。

ヒント-2 急激な圧力低下
 冷却トラップに液体窒素を入れたとき,真空容器内の圧力は,たとえば 0.02 Torr から 0.001 Torr 以下に急激に下がる。ということは真空容器内に入っていた気体の 95% 以上がいっきに排気されたことになる。テキストの「ヒント」には,冷却トラップは水蒸気と油蒸気を吸着すると書いてあるが,油蒸気の蒸気圧は 10-5 Torr 程度と十分に低いので,ここでは考えなくてよい。するともし「0.02 Torr まで排気した真空容器に残っている気体の 95% 以上が水蒸気」であれば,水蒸気の吸着で説明できることになる。
 ⇒詳しいヒント

ヒント-3 特性 I と 特性 II の違い
 排気特性を図示したグラフを見ると,特性 I の方は時間が経過してもあまり圧力が下がらないが,特性 II は順調に圧力が低下している。この違いはテキスト図 4 の空気と窒素の関係に相当するが,同じページに「違いは水蒸気」であることが書いてある。特性 II の水蒸気について考えてみよう。
 ⇒詳しいヒント


やってみよう ゴム風船はどうなる?
 空気でふくらませたゴム風船を試験管に取り付け,図 15-2 のように試験管を液体窒素で冷やすとどうなるだろうか。
 ⇒結果
ゴム風船と液体窒素
図 15-1 ゴム風船と液体窒素

やってみよう 液体窒素で液体空気を作る
 実験 8「熱電対」の実験の場所で行う。熱電対の実験が終わっていたら,液体窒素用デュワーびんに液体窒素を半分ほど入れる。次に熱電対の実験のところにあるテフロン製試験管をデュワーびんに入れる。このとき試験管の中に何も入っていないことを確認しておく。15 分ほど経過してから試験管を出してみると,試験管の底の方に液体が溜まっているはずだ。
 試験管の内壁は液体窒素の温度(77 K)ほどに冷やされているために,窒素や酸素の分子が壁面に吸着しやすくなる。また試験管の底の方では壁面から飛び出した分子が再び壁面にぶつかる確率は高いので,蒸発しにくくなる。ということで液化する。もっとも 1 気圧における窒素の沸点 77 K に比べて酸素の沸点 90 K の方が高いので,試験管に溜まった液体は酸素の濃度がかなり高くなっているようだ。液体酸素は磁石に吸引されるので,強力な磁石を近づけて観察してみるとよい。
注意】液体酸素は非常に酸化力が強い危険な物質である。絶対に火気を近づけたり,そこらへんにまきちらしてはいけない。蒸発してしまうまでそのまま置いておくこと。


参考 液体窒素で真空を作る
 金属などの表面に吸着する分子の数は温度が低いほど,また金属などの表面積が大きいほど多くなる。一般に多孔質の物質は表面積が大きいが,たとえば脱臭剤などとして用いられている活性炭は 1 g につき 5×102 m2 ほどの表面積をもっていて,液体窒素の温度まで冷却したときには自分の体積の数十倍以上の体積(1 気圧のときの体積)の空気を吸収してしまう。
 下図のように活性炭を入れた容器(右側の容器)を液体窒素で冷却すると,左右の容器に入っていた空気は活性炭に吸収されていく。このようにして機械的な真空ポンプを使用することなく 0.01 Torr 程度の真空を得ることができる。
 −アネルバ株式会社(真空装置のメーカ)による資料を参考した−
液体窒素で真空を作る
図 15-2 液体窒素で真空を作る

記:2005-11-12